ベータ崩壊のときに素粒子レベルでは何が起こっているか(1)

ニュースでよく見るヨウ素131を題材に、
放射線に注目があつまっているのに乗じて素粒子よりの話を。

放射線は、放射能を持った物質から出る訳ですが、
もうちょっと細かなことを言えば、
放射線の放出は、素粒子のスケールで起こっている出来事です。
カニズムを知ると放射線の実態?が少しわかるかも、思います。

原子とそれを取り巻く数字

ヨウ素131とか言われても知らんがな。
なので、まずは原子の一般的な話から入ってみます。

まず、原子は最小粒子(素粒子)ではないです。
あらゆる原子は陽子中性子電子の三種類の粒子が
いくつか組み合わさって出来ています。

陽子はプラスの電気を持った粒子です。
直径 0.000000000000001 m のボールです。

中性子は、名前そのまま、電気的に中性の粒子です。
実は作りが陽子に似ていて、サイズも同じです。

電子はマイナスの電気を持った素粒子です。
素粒子なので、サイズは無いもの(点)と思っています。

原子を作っている陽子と中性子は全てくっついてブロック("原子核")を作っています。
その周り、半径0.00000000005 m を電子が回っています。

スケールが、全然、分かりません。
陽子をあなたに例えると、あなたのすぐそばに友達(陽子と中性子)がいます。
そして、自分から 50km 離れた所を電子が回っています。
もはや他人。
このように距離はありますが、陽子と電子は電気的に強くつながっています。


原子の、他の原子とのつきあい方(化学的性質)は、原子の外側部分にくる、この電子の数で決まってきます。
電子と陽子の数は、原子全体としては電気的に中性になるように、同じになっています。
なので、陽子の数で原子の化学的性質が決まっているともいえます。

そこで、陽子の数("原子番号")でもって、原子の種類という事にして、名前を付けてやります。

原子核に陽子が1個ある原子 : 水素
原子核に陽子が2個ある原子 : ヘリウム
原子核に陽子が3個ある原子 : リチウム
...
原子核に陽子が53個ある原子 : ヨウ素
原子核に陽子が54個ある原子 : キセノン

中性子の数は、陽子の数でおおよそ決まってきますが、
唯一に決まる訳ではないです。
同じ原子(=とある陽子数)でも、中性子の数が違うモノがあります("同位体")
それら原子のいくつかは、不安定で、時間が経つと壊れてしまいます。

このように中性子の数は、化学的な性質には大きく寄与しませんが、
その原子自体の性質を決める重要な数字です。
なので、原子を厳密に区分するには中性子の数も情報になってきます。

そこで原子を厳密に指し示したいときは

  • 陽子の数で決まる元素の名前 (例えば"ヨウ素")
  • 陽子と中性子の数の和 (例えば 53 + 78 = 131)

の二つを指定して、ヨウ素 131 などと呼びます。

ヨウ素の崩壊

陽子と電子それぞれ 53 個、中性子 78 個で構成されるヨウ素131は不安定な粒子で、
電子を放出し、陽子と54 個、中性子 77 個のキセノン 131 に変化します。
(このときガンマ線(電磁波、光の強い版)も出るらしいですが、それは置いておいて。)

この減少を粒子の数に注目してみると

Before : ヨウ素 131
陽子 53 個
中性子 78 個
電子 53 個

After : キセノン 131 + 電子
陽子 54 個 (+1)
中性子 77 個 (-1)
電子 53 個(元から原子核の周りに居た) +1個(外に放出された一個) (+1)

ということで、中性子が一個へって、変わりに陽子と電子が増えています。
電荷が保存している事に注意していてください。
さて、この飛び出してきた電子(や、端折ったガンマ線)が、いま心配している放射線です。

こういうのをベータ崩壊といいます、
と、ここらあたりまでが高校物理の教科書。たぶん。

中性子ベータ崩壊で何が起こっているか

ここでは中性子ベータ崩壊を一段細かいレベルで見ます。

中性子と陽子は最小粒子(素粒子)では無く、
二つの素粒子--"アップクォーク"と"ダウンクォーク"--の組み合わせで出来ています。

この二つのクォーク電荷が特徴的で、電子の電荷を-1 とすると

アップクォーク +2/3
ダウンクォーク -1/3

です。

この組み合わせで陽子、中性子を作ろうと思うと、

陽子 : アップクォーク x 2 + ダウンクォーク
中性子 : アップクォーク + ダウンクォーク x 2

で出来ます。

先ほどのヨウ素 131 の崩壊では中性子が陽子になっていました。
上のクォークの組み合わせを眺めると、
中性子の中のクォークのからダウンクォークが一つ消えて、
アップクォークが一つ現れればいいと言うことになります。
ついでに電子も出しておきます。

こんな適当で良いはずが無い!
実際、足りないものがあります。
電子が出てる段階で、"見えない"粒子、ニュートリノが出ています。
人体には影響ないんですが、理論の正確のため、加えておきます。

これでいいですかね。
素粒子論的にはもう一声。
ダウンクォークから電子たちには直接変化できません。そういうルールです。
替わりに、新しい粒子"W ボゾン"がその仲介をします。そういうルールです。

これが素粒子レベルでみた中性子ベータ崩壊です。

まとめ