ベータ崩壊のときに素粒子レベルでは何が起こっているか(2)
原子炉から外にでは放射性物質は風で運ばれたり水にとけ込んだりして、
あちこちに広がります。
それぞれの行き先は気温も違えば湿度も違います。
さらに他の原子とも結合したりします。
一般に原子は他の原子とくっつくと、元の化学的性質は示しません。
たとえばナトリウムは水につけると激しく反応します。
塩素ガスは有毒です。
これらがくっついた塩化ナトリウム、つまり食塩は食卓に置かれます。
そんな環境も違う、状態もちがう放射性物質について、
その数が減っていくスピードを、なんで宣言できるのか、という話です。
これ、書き始めたはいいが、あまり普通の人は関心が無い。。。?
ミクロの世界は確率の世界
舞台は20世紀初頭。
物理学者はこれまで築いてきた物理(ニュートン力学とか電磁気学とか)を
そのまま小さな世界に当てはめていけば
終わりだと思ってました。
が、実際は説明できないことが出てきました。
例えば、電子が原子核の周りを回り続けるだけで、
核に落ち込んでいかない理由が分かりませんでした。
これを説明できる新しい物理の枠組みが「量子力学」です。
量子力学は、古典力学とは決定的に違い、
物事は確率でしか語れない、という立場に立ちます。
古典力学ではモノの場所と速度が分かれば、
未来予測が出来ます。
世界のあらゆる物質の位置と速度を知る事ができれば、
原理的には未来永劫、全てが分かると思っています。
それに対して、ミクロの世界では
「これが起きる!」
というような決定的な事はいえなくて、
「こうなる確率が XX%, ああなるのがXX%, ...」
のように確率を予言するにとどまります。
有名なところだと、電子のスリット(壁に開けた隙間)実験が、
自分たちの古典的な物理像をぶちこわす良い例です。
いろいろなところで紹介されてるので説明は端折ります。
最近だと雑誌"ニュートン" 2011年4月号の
「未来は決まっているか」でも載ってました。
ベータ崩壊の頻度と半減期
放射性物質が半分になる半減期というのは、
結局、半分の原子核がベータ崩壊を終えるまでの時間を見ているだけです。
ベータ崩壊は、(1)でも触れたように、
原子のなかでも、原子核が変化する現象です。
その現象は素粒子のレベルで起こっています。
ベータ崩壊が
一定時間中に起こる確率を
量子力学で見るときには
「中性子が中性子であり続ける現象」
と
「中性子が崩壊し陽子と電子とニュートリノになる現象」
のあり得やすさを比較していることになります。
このように一つの原子核だけを見ていると、
いつまで崩壊しないで残るかは確率の問題で、宣言できません。
しかし数が大量にあって、
その平均を見る場合は良い精度でものが言えます。
例えば一枚だけコイントスをしたとき表が出る確率は1/2で
どっちが出るかは分かりません。
でも1,000 枚のコインを投げれば、
プラスマイナス15枚くらいのばらつきはありますが(二項分布と統計誤差)、
きっと500枚くらいは表でしょう。
誤差は 15/500 = 3% くらいです
調子に乗って1,000,000,000,000,000,000,000 枚のコインを投げると、
1,500,000,000枚数くらいのふらつきで
500,000,000,000,000,000,000枚が表になります。
誤差は僅か 0.000000003 % です。
そんな枚数のコインは投げれないですが、
原子の数となるとこの数字は結構妥当な個数です。
身の回りの物質をつまみ上げると、それは
およそ 10の23乗(100,000,000,000,000,000,000,000)個の
原子で出来ています。
なので、原子一つ一つをみるといつベータ崩壊するかは分かりませんが、
たくさんの原子を持ってきて、それらの半分が崩壊をし終わっている時間は
高い精度で予言できることになります。
放射性物質の状態と半減期
くりかえしますが、放射性を放出するメカニズムは
原子の中の原子核の状態が変わる事です。
それに対して、自分たちの身の回りで起こっている物質の変化(化学変化)は
原子と原子のくっつき方の変化です。(原子の状態すら変わってません)
スケールが違うのです。
なので、ベータ崩壊は、
放射性物質を棒で叩いたり、火で暖めたりするような外部刺激で
引き起こされる類いのものでは無いです。
自分たち人間が手で起こせるような刺激は、
高々、化学反応のスケールです。
原子核にまで影響を及ぼすような刺激を与えるには
数桁上のエネルギーが必要になります。
同じ理由で温度や湿度とは関係がないです。
温度というのは原子の運動速度などの高さを示しています。
湿度は、環境のなかの水分子の多さを示しているだけで、
その数は、放射性物質の原子核に影響する事は出来ません。