新粒子発見のニュースについて

記事

http://www.asahi.com/science/update/0409/TKY201104090120.html

 米フェルミ国立加速器研究所イリノイ州)は7日、同研究所の大型加速器テバトロンで、現代素粒子物理学の枠組みである「標準模型」で想定されない全く未知の粒子が見つかった可能性がある、と発表した。自然界にある4種類の力以外の力の存在を示唆しており、確認されれば、私たちの自然観を変えるノーベル賞級の発見となる。

参考文献

原文に当たれ、とはよくいいますが。

何が見えたの?

アメリカのTevatron(テバトロン)加速器を用いて
陽子と反陽子を重心系エネルギー 1.96 TeV でぶつけて、
W ボゾン粒子が生成されたイベントに注目して見ていたら、
どうも今までに発見されていない、145GeV/c くらいの質量の粒子が
一緒に生成されているみたい。


データから抽出した事象は

  1. 高いエネルギーを持ったクォーク(実験的にはジェットとしてみえる)が2本いて
  2. 高いエネルギーを持った電子やμ粒子がいて
  3. 運動量が大きく保存していないようにみえる

イベント。
運動量が保存していないのは、
検出器にほとんど掛からないニュートリノ
持ち去ったと考える。

二番目の「電子/μ粒子が居た事」と
三番目の「運動量非保存」は、
Wボゾンの「電子とニュートリノ」「ミュ粒子とニュートリノ」への
崩壊と見る事ができる。

この条件で抽出されるイベントにて
条件1で選び出しておいた二個のジェットの性質(不変質量)
が、どうもこれまでの知識と合致しない。

赤い線(予想)がデータ(十字のクロス)の 150 あたりでの山を表現していない。

逆に、質量145GeV くらいの粒子が存在すると仮定すると、しっくりくる。

青い部分が、仮定した新粒子から来る部分。

素粒子標準模型ではヒッグス粒子がまだ発見されていないけれど、

  • ヒッグスならこんなにたくさん生成されていない。
  • クォークの成分比をみると、ヒッグスの特徴が見当たらない (ボトムクォークが多く含まれているはず)

ということから、違うっぽい。

まじで?

報告されているのは「確からしさ3.2 sigma」で、これは「99%以上の確率」。
これだけを聞いたら、「まあ本物でしょ」と思いたくなる。

ただし、ただし、これは全ての解析が正しく行われている場合に限る。
これが難しい。

ボールの大きさを測るのに、延びたメジャーで測ると、ボールが小さく見えてしまう。
つまり結果を出すときは、測定手法・道具の"くせ"を知っていないといけない。
実験結果を出すときにはどの程度「怪しいか」(系統誤差)を合わせて評価する。

この実験では、測定結果がシミュレーションと合わない事から
新粒子の可能性だと言っているが、
この場合、そのシミュレーションが如何に正しいかを証明しないと行けない。
それでもって、正しくない分は補正するなり「怪しさ」として加味する。

データとシミュレーションの一致具合については論文には載っていないが、
FNAL で行われたセミナーの講演資料を見ると
18-21 ページにて、各種測定量の比較をしている。
ここで見せているのは今回粒子が見つかった領域とは違う場所なので、
「シミュレーションは正しくデータを表現している」というためには
データとモンテカルロは一致していないと行けない。
が、いまいち。にみえる。

特に二つのクォークの開き角 ΔRjj は、
今回の結論で重要になるのにいまいち、あっていない。

論文の中でも、これには言及しているにとどめ、

For these reasons, we present these studies as cross checks and quote the significance in the unweighted sample as our primary result.>

というように「99%以上の確からしさ」には含まれていない。

また事象の選別では、上に挙げた3条件に加えて

  • 二本のクォークの親は高い運動量を持っていること(2ジェットの系の運動量が30GeV以上)

を要求している。
この目的は、論文では言及が無いが、同じ講演資料(7ページ)において

in order to improve data/MC modeling

、つまり「データとシミュレーションが、より合って見えるようにするため」と言っている。
これがきになる。

シミュレーションがデータに合わないならその原因を考えないとダメで、
まずい部分を切り捨てて隠したとしても、どこか他の部分にしわ寄せが来る可能性がある。
その結果、偽の新粒子を作るかもしれない。

さらにいうと、この研究は、
ちょっとだけ条件のちがう事象選別から始まった。
そこ(講演資料11ページ)で変なずれが見つかったので、条件をきつくしてみてみたのが今回。
つまり気になるのは、かれらはそこに信号があると思って物を見ている事である。
解析者が意図せずとも、無意識によりはっきりと新粒子が見えるように、
解析手法がチューンされたかもしれない。
(このような解析者の心理が入り込むのを防ぐために、
日本でやっている Belle実験では、最後の最後まで信号があると思っている場所だけは見ないで
カットの条件を決定する手続きを採用しています。)

なので「99%以上の確率で新粒子発見」といっても、
まだまだ詰めないと行けない事は多いのです。

ROOT のオプションあれこれ

TH1 の Draw に渡す option

http://root.cern.ch/root/html/THistPainter.html

memo :
Fill で色を塗った Histogram によって軸(目盛り)が塗りつぶされてしまった場合は、
frame 用のTH2F で Draw("AXISSAME") すればよい。

Fill 関係のサンプル。Color 付き

http://root.cern.ch/root/html/TAttFill.html

Line 関係のサンプル。Color 付き

http://root.cern.ch/root/html/TAttLine.html

ベータ崩壊のときに素粒子レベルでは何が起こっているか(2)

続いて放射線の話。「半減期」について。

原子炉から外にでは放射性物質は風で運ばれたり水にとけ込んだりして、
あちこちに広がります。
それぞれの行き先は気温も違えば湿度も違います。

さらに他の原子とも結合したりします。
一般に原子は他の原子とくっつくと、元の化学的性質は示しません。
たとえばナトリウムは水につけると激しく反応します。
塩素ガスは有毒です。
これらがくっついた塩化ナトリウム、つまり食塩は食卓に置かれます。

そんな環境も違う、状態もちがう放射性物質について、
その数が減っていくスピードを、なんで宣言できるのか、という話です。

これ、書き始めたはいいが、あまり普通の人は関心が無い。。。?

ミクロの世界は確率の世界

舞台は20世紀初頭。
物理学者はこれまで築いてきた物理(ニュートン力学とか電磁気学とか)を
そのまま小さな世界に当てはめていけば
終わりだと思ってました。

が、実際は説明できないことが出てきました。
例えば、電子が原子核の周りを回り続けるだけで、
核に落ち込んでいかない理由が分かりませんでした。

これを説明できる新しい物理の枠組みが「量子力学」です。
量子力学は、古典力学とは決定的に違い、
物事は確率でしか語れない、という立場に立ちます。

古典力学ではモノの場所と速度が分かれば、
未来予測が出来ます。
世界のあらゆる物質の位置と速度を知る事ができれば、
原理的には未来永劫、全てが分かると思っています。

それに対して、ミクロの世界では
「これが起きる!」
というような決定的な事はいえなくて、
「こうなる確率が XX%, ああなるのがXX%, ...」
のように確率を予言するにとどまります。

有名なところだと、電子のスリット(壁に開けた隙間)実験が、
自分たちの古典的な物理像をぶちこわす良い例です。
いろいろなところで紹介されてるので説明は端折ります。
最近だと雑誌"ニュートン" 2011年4月号の
「未来は決まっているか」でも載ってました。

ベータ崩壊の頻度と半減期

放射性物質が半分になる半減期というのは、
結局、半分の原子核ベータ崩壊を終えるまでの時間を見ているだけです。

ベータ崩壊は、(1)でも触れたように、
原子のなかでも、原子核が変化する現象です。
その現象は素粒子のレベルで起こっています。

ベータ崩壊
一定時間中に起こる確率を
量子力学で見るときには
中性子中性子であり続ける現象」

中性子が崩壊し陽子と電子とニュートリノになる現象」
のあり得やすさを比較していることになります。
このように一つの原子核だけを見ていると、
いつまで崩壊しないで残るかは確率の問題で、宣言できません。

しかし数が大量にあって、
その平均を見る場合は良い精度でものが言えます。
例えば一枚だけコイントスをしたとき表が出る確率は1/2で
どっちが出るかは分かりません。
でも1,000 枚のコインを投げれば、
プラスマイナス15枚くらいのばらつきはありますが(二項分布と統計誤差)
きっと500枚くらいは表でしょう。
誤差は 15/500 = 3% くらいです

調子に乗って1,000,000,000,000,000,000,000 枚のコインを投げると、
1,500,000,000枚数くらいのふらつきで
500,000,000,000,000,000,000枚が表になります。
誤差は僅か 0.000000003 % です。

そんな枚数のコインは投げれないですが、
原子の数となるとこの数字は結構妥当な個数です。
身の回りの物質をつまみ上げると、それは
およそ 10の23乗(100,000,000,000,000,000,000,000)個の
原子で出来ています。

なので、原子一つ一つをみるといつベータ崩壊するかは分かりませんが、
たくさんの原子を持ってきて、それらの半分が崩壊をし終わっている時間は
高い精度で予言できることになります。

放射性物質の状態と半減期

くりかえしますが、放射性を放出するメカニズムは
原子の中の原子核の状態が変わる事です。
それに対して、自分たちの身の回りで起こっている物質の変化(化学変化)は
原子と原子のくっつき方の変化です。(原子の状態すら変わってません)
スケールが違うのです。

なので、ベータ崩壊は、
放射性物質を棒で叩いたり、火で暖めたりするような外部刺激で
引き起こされる類いのものでは無いです。
自分たち人間が手で起こせるような刺激は、
高々、化学反応のスケールです。
原子核にまで影響を及ぼすような刺激を与えるには
数桁上のエネルギーが必要になります。

同じ理由で温度や湿度とは関係がないです。
温度というのは原子の運動速度などの高さを示しています。
湿度は、環境のなかの水分子の多さを示しているだけで、
その数は、放射性物質原子核に影響する事は出来ません。

まとめ

  • 半減期とは、放射性物質のうち半分が放射線を出し終わるまでの時間
  • 量子力学では物事は確率です
  • 自分たちが住むマクロな世界は膨大な数の原子で出来ています
  • 膨大な数の、確率的な振る舞いは高い精度で予想できます
  • 放射線原子核の変化の結果であって、化学反応とは別スケールです。
  • なので、加熱などで早めたりできるものでは無く、環境に放出された放射性物質半減期も、実験室に保管されている場合と同じです。

ベータ崩壊のときに素粒子レベルでは何が起こっているか(1)

ニュースでよく見るヨウ素131を題材に、
放射線に注目があつまっているのに乗じて素粒子よりの話を。

放射線は、放射能を持った物質から出る訳ですが、
もうちょっと細かなことを言えば、
放射線の放出は、素粒子のスケールで起こっている出来事です。
カニズムを知ると放射線の実態?が少しわかるかも、思います。

原子とそれを取り巻く数字

ヨウ素131とか言われても知らんがな。
なので、まずは原子の一般的な話から入ってみます。

まず、原子は最小粒子(素粒子)ではないです。
あらゆる原子は陽子中性子電子の三種類の粒子が
いくつか組み合わさって出来ています。

陽子はプラスの電気を持った粒子です。
直径 0.000000000000001 m のボールです。

中性子は、名前そのまま、電気的に中性の粒子です。
実は作りが陽子に似ていて、サイズも同じです。

電子はマイナスの電気を持った素粒子です。
素粒子なので、サイズは無いもの(点)と思っています。

原子を作っている陽子と中性子は全てくっついてブロック("原子核")を作っています。
その周り、半径0.00000000005 m を電子が回っています。

スケールが、全然、分かりません。
陽子をあなたに例えると、あなたのすぐそばに友達(陽子と中性子)がいます。
そして、自分から 50km 離れた所を電子が回っています。
もはや他人。
このように距離はありますが、陽子と電子は電気的に強くつながっています。


原子の、他の原子とのつきあい方(化学的性質)は、原子の外側部分にくる、この電子の数で決まってきます。
電子と陽子の数は、原子全体としては電気的に中性になるように、同じになっています。
なので、陽子の数で原子の化学的性質が決まっているともいえます。

そこで、陽子の数("原子番号")でもって、原子の種類という事にして、名前を付けてやります。

原子核に陽子が1個ある原子 : 水素
原子核に陽子が2個ある原子 : ヘリウム
原子核に陽子が3個ある原子 : リチウム
...
原子核に陽子が53個ある原子 : ヨウ素
原子核に陽子が54個ある原子 : キセノン

中性子の数は、陽子の数でおおよそ決まってきますが、
唯一に決まる訳ではないです。
同じ原子(=とある陽子数)でも、中性子の数が違うモノがあります("同位体")
それら原子のいくつかは、不安定で、時間が経つと壊れてしまいます。

このように中性子の数は、化学的な性質には大きく寄与しませんが、
その原子自体の性質を決める重要な数字です。
なので、原子を厳密に区分するには中性子の数も情報になってきます。

そこで原子を厳密に指し示したいときは

  • 陽子の数で決まる元素の名前 (例えば"ヨウ素")
  • 陽子と中性子の数の和 (例えば 53 + 78 = 131)

の二つを指定して、ヨウ素 131 などと呼びます。

ヨウ素の崩壊

陽子と電子それぞれ 53 個、中性子 78 個で構成されるヨウ素131は不安定な粒子で、
電子を放出し、陽子と54 個、中性子 77 個のキセノン 131 に変化します。
(このときガンマ線(電磁波、光の強い版)も出るらしいですが、それは置いておいて。)

この減少を粒子の数に注目してみると

Before : ヨウ素 131
陽子 53 個
中性子 78 個
電子 53 個

After : キセノン 131 + 電子
陽子 54 個 (+1)
中性子 77 個 (-1)
電子 53 個(元から原子核の周りに居た) +1個(外に放出された一個) (+1)

ということで、中性子が一個へって、変わりに陽子と電子が増えています。
電荷が保存している事に注意していてください。
さて、この飛び出してきた電子(や、端折ったガンマ線)が、いま心配している放射線です。

こういうのをベータ崩壊といいます、
と、ここらあたりまでが高校物理の教科書。たぶん。

中性子ベータ崩壊で何が起こっているか

ここでは中性子ベータ崩壊を一段細かいレベルで見ます。

中性子と陽子は最小粒子(素粒子)では無く、
二つの素粒子--"アップクォーク"と"ダウンクォーク"--の組み合わせで出来ています。

この二つのクォーク電荷が特徴的で、電子の電荷を-1 とすると

アップクォーク +2/3
ダウンクォーク -1/3

です。

この組み合わせで陽子、中性子を作ろうと思うと、

陽子 : アップクォーク x 2 + ダウンクォーク
中性子 : アップクォーク + ダウンクォーク x 2

で出来ます。

先ほどのヨウ素 131 の崩壊では中性子が陽子になっていました。
上のクォークの組み合わせを眺めると、
中性子の中のクォークのからダウンクォークが一つ消えて、
アップクォークが一つ現れればいいと言うことになります。
ついでに電子も出しておきます。

こんな適当で良いはずが無い!
実際、足りないものがあります。
電子が出てる段階で、"見えない"粒子、ニュートリノが出ています。
人体には影響ないんですが、理論の正確のため、加えておきます。

これでいいですかね。
素粒子論的にはもう一声。
ダウンクォークから電子たちには直接変化できません。そういうルールです。
替わりに、新しい粒子"W ボゾン"がその仲介をします。そういうルールです。

これが素粒子レベルでみた中性子ベータ崩壊です。

まとめ

水道水を沸騰させてもヨウ素は解決しない

ニュース(バラエティなのかなぁ)で
沸騰させてもダメか、視聴者が聞いていた。

その番組では「無駄」とだけ言ってたんだけど、
なんで「説明」しなかったのか、微妙。
聞く側が科学嫌いですかね。
なんて思ってしまうのは、偏見ですかね。

沸騰させても飛ばない

水よりもヨウ素の方が沸点が高い。
という事は蒸発しにくい。

極端に例えると
食塩水を沸騰させたら食塩が後に残る(濃い塩水ができてる)のと同じ。
減らすつもりが、むしろ濃くなる。

沸点
- 水 : 100度
- ヨウ素 : 180度
- 食塩 : 1400度

揮発に関して、実際に実験

東大病院放射線治療チームが、真偽をはっきりさせるための実験を報告しています。
http://twitter.com/team_nakagawa/status/50751264211992576

これの前に
「高揮発性のおかげで、煮沸でOK」
というような議論があったみたいですが、
訂正が入ってます。
http://twitter.com/team_nakagawa/status/50718086290092032

沸騰させても放射性は無くならない

水の沸騰のエネルギーでは放射性をなくせない。

まず、物質の"放射性"は、その原子核から来ている。
物質というのは細かく切っていけば原子に行き着く。
原子は、原子の核"原子核"(そのまんま)と、それを取り巻く電子たちで構成されている。
いま話題になっているヨウ素からの放射線は、
原子核が変化する際の副産物として電子が生まれ
(原子が持っていた電子とは別物)
それが外に飛び出してきたもの。

沸騰のエネルギーでは、
原子を他の原子とくっつけたり、切り離したりしか出来きない。
他の原子とくっついても(あるいは離れても)、
ヨウ素原子の電子の位置が変わるくらいで、
原子核の構造まで変化させる事は出来ない。

ヨウ素を何かと化学反応させても放射性は無くならない

ヨウ素がどういうモノと化学反応しやすいかとか知らないんだけど、
化学反応は原子と原子のくっつき方が変わっているだけで、
いま問題にしている原子核は変化していない。

なのでヨウ素を何かとくっつけても、
そのヨウ素原子が放射性を持つ事には変わりない。

これは上の、沸騰させても放射性が無くならないのと
おなじスケールの話。

おまけ : 水道水の塩素は飛ぶ理由

水道水を沸騰させると残留塩素はどうなるの?

水道水の塩素臭さをなくすのに加熱するのは、
揮発させているもんだと思ってたけど、
この実験によれば、水道水中の他の物質と反応しているのが主な減少理由。
実験では、蒸留水 + 次亜塩素酸ナトリウム + 沸騰、では、残留塩素の量が減りにくいのに、水道水の場合だと有効、という結果。

紙芝居 "福島原発の放射能を理解する"

福島原発放射能

福島原発の放射能を理解する

物理学者の野尻さんをはじめとする方々が、
Monreal氏の講演スライドの日本語化をされました。


学生にも出来る事があるのかもしれません。
自分ならこのスライドを使って、どう説明するかな。
と考えて、台本をかきました。
所詮いち学生、先生方の本意からずれてるかもしれません。
端折っているところ、脇道にそれているところもあります。
そもそも間違いすらありえます。がんばりますが。


こういう長い話は嫌われるかもしれませんが、
それでも、だれかの理解の役に立てば。

今北産業

自分的要約

  • 放射線をだす物質と、それらがどうやって出来るかを理解する
  • 原子炉の事故では、それまで隔離していた放射性物質が外に出るのがヤバい
  • シーベルトという単位を理解して、ニュースを自分で判断出来るように

前知識

原子?

物質を細かく刻んでいくと、化学反応の最小単位「原子」に行き着きます。
酸素、とか炭素、というのは原子のひとつです。


実は原子は究極の最小単位ではなく、
原子核」と、負の電気を帯びた「電子」に分けることが出来ます。
さらに原子核は電気的に中性の「中性子」と
陽の電気を帯びた「陽子」とで出来ています。


普通の状態では、陽子の数と電子の数は同数あり、
その結果、原子は電気的に中性になっています。
また中性子は陽子と同じくらいあります。
中性子の数については、下で説明します。

放射線放射能

大辞林によると
X線中性子線・宇宙線なども含めて、すべての電磁波および粒子線をいう。」
という定義です。


X 線はエネルギーの高い光です。より正確には電磁波です。
紫外線を浴びると肌が焼けますが、
それは可視光よりも紫外線のほうがエネルギーが高いため皮膚の細胞が傷つけられるです。
さらにエネルギーを高くし電磁波が X 線です。


中性子線の正体は、言葉のとおり中性子です。
たとえばウランのような大きな原子核が別の原子核に崩壊するときに、
二つのメインになる原子核の他に、破片のように中性子が放出される事があります。


他に電子も放射線として考えられます。
中性子は陽子、電子、ニュートリノに崩壊することが出来ます。
これが原子核で起これば、生成された電子とニュートリノ原子核の外に放出されます(ベータ崩壊)。


さらに、アルファー線というのもあります。
この正体は「中性子二個と陽子二個のかたまり」で、
ちょうどヘリウム原子核と同じです。
大きな原子核の場合に、
むりおして多くの陽子・中性子を抱え込むよりも、
ヘリウム原子核分だけ捨てた方が安定する場合に、
このアルファー線の放出 -- アルファー崩壊が起こります。


ここで大事な事は、「放射線」という言葉は、
電磁波であれ中性子であれ、とにかくモノをさしている事です。
おなじくらいよく聞く「放射能」とは区別しないといけません。


放射能」は、
放射線を出す物質がどれだけ放射線を出すかを
定量的に表現するための、「数値」です。
放射能力」とか言えば分かりやすいのかも。


もうちょっと言えば、たとえば「放射線計測ハンドブック(Knoll著)」での定義は明確です。そこでは"放射能とは放射線源が崩壊する割合で定義される"としています。一般にN を粒子数、tを時間、λを崩壊定数とすれば

dN/dt = -λN

と書かれます。「この瞬間に崩壊する粒子数(dN/dt)は、今ある粒子数(N)に -λ で比例する」という式です。λが大きい放射能が高いことになります。


定義を知ると「放射線」と「放射能」が
混同されるべきではないと分かります。

半減期

核崩壊や放射線の放出は、確率現象です。
つまり一個の原子を持ってきたとすると、
それがいつ崩壊するかは予言できません。


これは原子核の崩壊現象が「弱い相互作用」の結果だからです。
科学が好きな人は、量子力学と合わせて調べてみてください。
要は、ある瞬間に崩壊するかどうかはランダムに決まる、そういう感じです。


さて、一個の原子核の崩壊は分かりませんが、
いっぱい持ってきて、平均を見る事なら分かります。
放射性物質を扱う際には、
とある時間にあったたくさんの原子が
崩壊して半分になるまでかかる時間を
半減期」と呼んで、崩壊のしやすさの目安にします。

紙芝居

スライドへの直リンク

翻訳スライド(バージョン2)

更新版が存在するかもしれません。
最新版が無いか
福島原発の放射能を理解する
で確認してください。

4ページ目

まず始めに、今日の話題に出てくる"原子"たちを紹介します。


中学(小学?)科学ででてくる周期表です。
原子は、それを構成する陽子の数で、番号が振られています。
原子力発電所で使われるウランは92 番、
プルトニウムは 94 番なので、
それぞれ92個、94個の陽子を持っています。

そしてウランが崩壊して出来るセシウムヨウ素
55, 53 番とより小さな値を持っています。

最も少ない陽子1個の原子は水素です。
(三重水素って?次に説明します)

5ページ目

先のページでは原子を陽子の数で分類しましたが、
同じく中性子の数でも分類する事が出来ます。


水素は陽子一個の周りに電子が一個ある、シンプルな構成です。
この水素に、中性子が一個増えた「重水素」というものが存在します。
そしてさらに中性子が一個増えた「三重水素」という物もあります。


陽子と中性子の重さはほとんど同じで、
それらに比べて電子の重さは無視できるので、
重さは

重水素 = 2 x 水素
三重水素 = 3 x 水素

と言えます。


このように陽子の数が同じでも、中性子の数が異なる物を、同位体と呼びます。

6ページ目

これら同位体は水素だけでなく、
全ての原子に考える事が出来ます。

7ページ目

さらに。

8ページ目

さらに。

9ページ目

このように様々な数の陽子と中性子の足し算で原子核を考える事が出来ますが、
全てが安定とは限りません。


例えば陽子ばっかりの原子核が作れたとしても、
それらは陽子間に働く静電気の力のために、安定ではいられません。


逆に中性子ばかりの原子核を作ったとしても、
陽子が混ざっていた方が安定なので、中性子が壊れて陽子に変わります。
(読まなくて良いですがここの定性的な詳細→*1 )


どちらにしても、結局、図の中で黒いバンドになっている安定なところに落ち着きます。


また中性子と陽子をどんどん増やしていった原子核も安定ではいられません。
原子炉でも使っているウランの同位体を見てみると、
ウラン 235 は中性子を吸収すると、セシウムなどの
小さな原子核をもつ原子に、とある確率で崩壊します。
(右上の場所から、真ん中よりの方に移るイメージです)
このように大きな原子核が崩壊する現象は、核分裂と呼ばれます。


核分裂により、原子を安定な状態に移ります。
ということは、
不安定な状態にあったところから安定になった、その変化の程度に応じて、エネルギー的に得をする
ことになります。
その余ったエネルギーを利用しているのが原子力発電です。


具体的にはウラン235(陽子92個、中性子143)が一つの中性子を吸収して起こす核分裂からは、
およそ 200MeV のエネルギーが取り出せます。
MeV(メガ・エレクトロンボルト、日本人はメブと呼んだり。) は
カロリーとおなじくエネルギーの単位で、
変換すれば、0.00000001 カロリーになります。


このように核分裂一個だけ見ればたいした事が無いのですがこれが、
これを自分たちの見ている世界のスケール、
つまり大量の原子がある状態で見ると話が劇的に変わってきます。
おおざっぱな話をすれば、
自分たちの身の回りの物質は 10 の 23 乗個 (100,000,000,000,000,000,000,000)の原子で
出来ています。(いわゆるアボガドロ数)
なので、一つの原子核崩壊で得られるエネルギーとの
かけ算をすれば 10の14乗カロリー、
食べ物的に言えば 100,000,000,000キロカロリーになります。

10ページ目

このようにエネルギーを取り出す際に、
ウランが核分裂を起こした際に生じる中性子が周りの物質に作用する事があります。
原子炉では燃料であるウランの周りに、当然、水や空気、
配管などの物質が必ず存在する(地球上だし)わけですが、
中性子がそれらとくっついて、同位体を作る事があります。
(ページ右下の方)
本来ならば安定なライン上に居たはずの原子が、
テーブルの右側に移動して、不安定な原子に変わります。

11ページ目

不安定な原子は、エネルギーを外に吐き出す事で安定な状態に移ろうとします。
その際に放出されるのが放射線で、下の三つに分類できます。

これら放射線は、人体にぶつかるとそのエネルギーで組織を破壊してしまいます。
これが放射線が厳重に扱われる理由です。

12ページ目

このダメージを、定量的に表す単位がいくつかあります。
とくにニュースでよく聞くシーベルト」は、
どれだけヤバい放射線をどれだけ浴びたか
を示す単位です。


たとえば同じ回数だけ浴びたとしてもアルファー線とベータ線とでは、
体の組織に与えるダメージが違います。
なので、その放射線の種類に応じて重みをつけて集計した量であるシーベルトは人に与える影響を知るのによい数値と言えます。

13ページ目

では、このシーベルトで、モノを見ていきます。


まず、知っておかないといけないのは、自分たちは日々、放射線を浴びているという事です。
自然には放射性の物質が僅かながら存在します。
ただ程度が低いために、これら「自然被曝」が問題になる事はありません。


浴びる量は、環境によって変わるので地域によって差が出ますが、
一年間でミリ・シーベルト程度です。

14ページ目

では、被曝によってどのような問題が出てくるかを見てみます。


放射線は人体の組織とぶつかると、そのエネルギーで「傷」をつけることになります。
このときに人体の DNA が傷つくと結果としてそれがガンにつながる可能性があります。


表は 1000 ミリシーベルトを浴びたとすると、
どれだけガンの発病率が上がるかを見たものです。
(医学のプロで無いので、どういう集計か、どれだけのインパクトか分からないです。)

15ページ目

ガンの増加は、放射線を浴びた事により生じる、長期的な問題です。
それと比べると、大量の放射線を浴びた際には短期で問題が生じる事があります。
いくつかの例を挙げておきます。
5シーベルト(Sv) = 5000 ミリシーベルトを浴びると生命の危機だと分かります。

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ニュースに出てくる数字を例にとってみてみます。
補助単位が出てきたりするので、かずの大きさに振り回されないように注意が必要です。


ニューヨークタイムズ社によると
毎時400ミリシーベルトを観測する環境下に
作業員が居た事になります。
5,000 ミリシーベルトで危険なので、
単純に割り算すると 12 時間で生命が問題になる度合いです。


また WNN が報じた数字に 8217 マイクロシーベルトという量があります。
マイクロはミリの一つ下--3桁下になります。
- ギガ : 100,000
- キロ : 100,
- (補助単位無し) : 1
- ミリ : 0.001
- マイクロ : 0.000001
なので、ミリシーベルトに直せば 8ミリシーベルト、ということになります。

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ニューヨークタイムズの記事を続けます。
一つ目のグラフは観測放射線量をグラフで見たものです。
4号機で火災が起こったときに 12 ミリシーベルトを観測しています。

ちなみに彼等らが「400ミリシーベルト」といっているのは
「毎時400ミリシーベルト」ということだと推測されます。
単に放射線量を表す「シーベルト」ではなく
さらにそれがどれだけの期間の集計なのか、も合わせて表す
「毎時 シーベルト」で計らないと行けないという事は簡単な話です。

右側のグラフは東海村での測定値の遷移です。
三カ所の測定値に加え、フライト中での放射線量と、平常時の放射線量(通常レベル)を示しています。
一時の増加はありますが、やがて、
フライト中の放射線量である毎時0.005 ミリシーベルトを下回っています。


....といった具合で、シーベルトという単位に慣れていってください。

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では、被曝量と人体への影響はどのような関係があるか考えてみます。
大量に浴びると死に至る事は分かっているのですが、
実は比較的少量の場合にはどれだけ放射線をあびたら、
どう危険度が増加するかは非常に難しい問題なのです。


理由は簡単で、そんな実験、人として出来ないからです。
事故が起こった結果をデータとして収集する事は出来ますが、
それでもその精度などに困難が伴うのだと思います。


現れる影響の予測は様々されていて、
例えば
- 浴びる量に応じてどんどん上がっていくのか
- とある量を浴びて始めて発病する可能性がではじめるのか(閾値型)
と、病状の現れ方にもあります。

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さて、原発の現状に目を向けてみます。
放射性物質が漏れだす事が危険視されていますが、
いったい何が、どこから漏れることを考えれば良いのか見ていきます。

まずは、すでに登場した、元素と同位体のマップで見てみます。
ここは、10ページで見た話の復習です。

一つ目は燃料。ウランなりプルトニウム
これは始めから原子炉にある物や、中性子の吸収によって形を変えた物です。


二つ目は核分裂の結果の生成物。
ウランなどが崩壊して出来た物質は、安定とは限らず、放射線をだす能力を持った放射性物質もできます。


三つ目は水や空気と行った環境の物質が放射化したもの。
「放射化」とは、放射線を浴びるなどして、物質が放射線を出す放射性物質に変わることを言います。

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では、これを周期表でみてみます。
上の青い分類は環境の物質が放射化したもの。
真ん中の赤は、核分裂の結果で来た生成物。
一番下は、燃料にはいっている放射性物質です。

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これら物質をそれらの拡散を意識して、みてみます。


真ん中の青いのは不活性金属で、水に溶けませんし、他の物質と簡単には反応しません。
とりあえず拡散の程度は低いと言えます。


左の紫は水に溶ける物質、右の黄色は常温で気体の物質です。
これらは青に比べると拡散しやすいということです。
また、人体にも取り込まれやすい(口から入るといういみで)と言えます。

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ではこれら物質が、原子炉の中でどうコントロールされているか、事故の起こった原子炉で何が起こっているか見てみます。


運転中の原子炉では、核燃料はジルコニウムのカバーに格納されています。
なので核分裂で生じた物質などは、その中に隔離できています。
その外には水(など。炉依存らしいですが)があり、
これらは放射化してしまいます。
しかし、それらは原子炉の中に閉じ込められています。


つまり原子炉の外の環境には実質、影響はありません。

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では「メルトダウン」が起こるとどうなるのか見てみます。


メルトダウンは、燃料棒が溶け出す事を意味しています。
ジルコニウムでカバーされていた燃料は漏れだし、
炉心のなかの水には核分裂生成物などの放射性物質が溶け出し、蒸気中には放射性ガスが混ざることになります。


しかし、この段階で止める事が出来たならば、環境への影響は防ぐ事が出来ます

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問題はメルトダウンが起こった上に、
蒸気圧を押さえるために緊急排気(emergency venting)を
行う必要が出たときです。


こうなると蒸気に混じっていた放射性物質が環境中に環境に漏れだすことになります。


アメリカのスリーマイル島原子炉事故では、これが起こっていました。

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福島第一原発で起こったのは、まさにこれです。


残念ながら炉の中で閉じる事が出来ず、
環境中に放射性物質が放出されました。


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さらに悪いケースは燃料が発火した場合です。
こうなると環境中にウランなどが放出されることになります。



燃料プールのある施設での発火が報じられましたが、
これが起こっているかは、はっきりしません。

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チェルノブイリでは、もっと悪い事態が起こりました。


まず、チェルノブイリでは炉心に黒鉛を使っていました。
黒鉛中性子の吸収が良いため制御に便利な反面、
事故の際には燃焼を起こしてしまう難しさがあります。


そしてチェルノブイリでは、事故後も核燃料の反応が継続する事態にまで進みました。
福島の原子炉は、核分裂停止には成功しています。

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チェルノブイリの事故発生時の写真です。
事故のあった4号炉が吹き飛んでます。。。

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福島の原子炉では、地震津波による一段階での最悪の事態は避けられました。
炉心は地震でも津波も耐える事が出来ました。
さらに炉心の緊急停止も成功しています。
また住民への避難も始める事が出来ています。


このように炉は停止する事が出来ましたが、既に核分裂反応で出来た放射性物質による熱を取り除き続ける必要があります。


グラフは(たぶん)炉の停止からどれだけ熱が放出されつづけるかを示したグラフです。
縦軸は Log で取ってあります。なじみが無いかもしれませんが、
軸が 0.1 -> 1.0 -> 10.0 と、10倍ずつ増えているのをみれば
1年たてば熱は1/100 以下になることが分かります。
逆に言えば、その程度の継続した冷却が必要という事にもなります。

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最後に、放射性物質の原子の種類に注目して、影響を考えていきます。


まずヨウ素131(陽子 53個, 中性子 78個 )はベータ線を放出します。こいつは半減期が 8日と、比較的短めです。
チェルノブイリでは、これによる被曝量が 0.5 ミリシーベルトと見積もられています。


セシウム137 (陽子 55 個、中性子 82 個)はガンマ線を放出します。
半減期が 30年と長く、長期間にわたる被曝の原因となります。


ストロンチウム90 (陽子 38個、中性子52 個)は
ベータ線を放出し、30年と長い半減期を持ちます。
カルシウムと性質が似ているらしく、
体内でカルシウムがあるところにこいつが置き換わってしまい、体の中から被曝することがあります。厄介です。


プルトニウム 241 (陽子42 中性子147) もベータ線を放出します。

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火災が起こった際に、煙に含まれる放射性物質に注意が必要です。
風で拡散されるので風向き、強さに注意が必要です。


屋内退避で窓をしめろ、というのはこのためです。
チリを体に近づけないようにするわけです。


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放射線というと怖がられますが、
なにより、まず、正しく知ることが大切です。
目には見えないのでよくわからないですが、
かといって、必要以上に怖がる事もありません。


私の主観ですが放射線観測の数値は出回っています。
シーベルトの意味を知って、それらを眺めれば、
いまどういう状況にあるのか、
自分でも簡単な判断が出来ると思います。

感想

自分でも新しく知る事が多くありました。
正しい事を伝えられているか、心配です。


特に、健康/生命に直結する事はこんなサイト見ずに、
信頼のおける情報筋にお願いします。

*1:なんで中性子ばかりの原子核は安定ではないか。これは(1)量子力学と(2)中性子の性質から来ています。まず量子力学によると、束縛状態の粒子のエネルギーは自由に選べず、とびとびの値しか許されません。次に中性子の性質として、同じエネルギー状態には一つしか存在できません。量子力学から許されるそれぞれエネルギーレベルには一人用のイスしかないイメージです。("フェルミ統計に従う"と言い、そういう粒子をフェルミオンと言います。陽子や電子もフェルミオンです。)その結果中性子ばかりで核を作ったとすると、中性子の数が増えるに従って、それぞれの中性子の持つエネルギーは少しずつ高くなっていきます。そんな状態を維持するよりも中性子→陽子+電子+ニュートリノに崩壊した方が安定なので、そうなります。結果として中性子だけで構成される原子核はありません。